プライバシーの保護から生まれた造形的な住宅

階段道路上部からの眺めです。三面道路に囲まれているため通行人の視線や車の騒音などが気になるところです。そういった外部要素からのプライバシー保護のため、開口部の位置や間取りに工夫を凝らした住空間を作りました。大胆な勾配の片流れ屋根が印象的です。

前面道路には駐車スペースを確保し、キャンティレバーで張り出した建物が程よい雨除けを作っています。削ぎ落としたデザインが周囲の無個性な街並に一際目立ちます。そして全く開口部のないファサードはかえって興味をそそりますね。一体は建物内部はどうなっているのでしょうか？

擁壁との間に真っ白な「空き」を設け、近隣との境に植栽を施すことでプライバシーの保護と自然との共存を目指しています。水廻り空間を中心に居室を配置し、流動性のある動線を作り出しています。

直線で構成される空間と設えが開放性を生み出し、ミニマルなリビングダイニングでシンプルなライフスタイルを実践できそうですね。

前述の擁壁に向って設けられた大きな開口を閉めるとモダンな印象の十字の桟が現れ、内外空間を緩やかに仕切ります。床には柔らかさと温かさを感じさせる無垢材を採用しており、無機質なイメージの外観からは想像できない心地よい家が出来上がりました。

水平にのびた開口が植栽を綺麗に取り込んでくれます。隣家との視線を合わせることなく日の光を十分に享受できるダイニング空間です。壁伝いに設けた一直線のベンチはシンプルなのに機能性溢れた設えです。

この植栽はアオハダと言い、四季折々の移ろいが楽しめるそうです。また小さな実がなるので、それを食べに来る動物を観察するのも楽しみの一つですね。清々しい新緑を眺めながら家族が食卓を囲むことができるダイニングです。

正面ファサードと屋根の傾斜がダイナミックな内部空間を形成します。窓も傾斜によって切り取られ面白い表情を見せています。

階段は蹴込みのないオープンなデザインにすることで軽やかさを生み出し、同時に玄関周りに光が差し込むようになっています。

すり板ガラスはプライバシーの保護をしながら外光を内部に取り入れてくれるので、非常に便利な素材です。

空間から空間へのトランジションポイントである階段や玄関周りが明るいのは視覚的にも心理的にも大事な要素と言えるでしょう。

２階を見てましょう。大きめの納戸を設け、居室を最大限に確保しています。すっきりとした生活空間を作るには収納はとても大事です。戸で仕切ることが可能なウォークインクロゼットなどは生活感を極力抑えたいライフスタイルにはもってこいですね。

寝室には細長いすり板ガラスとルーバーの開口を設けて採光と換気を確保しています。もちろんプライバシーの保護も考慮されています。造作の腰掛けが可愛らしいアクセントとなってミニマルな空間に遊び心を加えています。

寝室から繋がる前面道路側に大きなテラスを配置しています。内外の連続性を持たせながらも閉じた空間にすることで落ち着いた安堵感を醸し出した設計です。正面の隣家からも距離がある程度保たれているので視線も気になりませんね。

立地条件により閉鎖的な外観をもつこの住宅の内部は驚くほど明るく開放的で自然を気持ち良く取り込んでいます。ミニマルでクールな印象の中にも優しく暖かみのあるインテリアが心地よい生活空間を作り出してくれています。