今回ご紹介するプロジェクトはいくつもの建物があるお寺の境内において、庫裡(居住空間)と離れを、中庭を中心として動線の再構築を軸にリノベーションした事例。俵・小畠建築設計事務所 / TAWARA・OBATAKE ARCHITECT & ASSOCIATESによって手掛けられました。建てられた年代の違ういくつもの建物から成るこのような事例では、全体のバランスを保ちつつも時代と生活スタイルに沿った改修が望まれます。いったいどんな空間に生まれ変わったのか、早速見て行くことにしましょう。
撮影:野村和慎
中庭を囲んで左手の建物が離れ、右手の建物が庫裡、奥に見えているのが本堂です。今回のリノベーションに際して中庭にはウッドデッキが新設されました。これによって離れ、庫裡、中庭間での段差が軽減されて空間につながりが生まれ、より一体的に使用することができるようになりました。また離れ、庫裡ともに中庭に面して大きな開口が設けられ、開放的で視線や気配を感じあえる空間となっています。
こちらは庫裡のキッチンからダイニングおよび中庭方向を望んだ様子です。中庭を挟んで離れまで見通すことができます。この広々とした一室空間はもともと8帖の続き間だった場所。南側の玄関を撤去してそこにテラスが設置され、そのテラスに面してこのダイニングキッチンが計画されました。ナラの無垢材を使用した床、珪藻土の壁、天井のシンプルでナチュラルな空間に、クライアント夫婦が趣味で集めた家具やオーダーメイドのステンレス製キッチンがよく映えています。
こちらは同じ角度でガラス障子を閉じたときの様子。ダイニング、キッチン、和室においてはお寺の行事や来客に応じて臨機応変に間取りを変化させられるよう建具の位置が配慮されています。そしてこのダイニングのガラス障子には、フランス製の装飾ガラスが採用され、空間に華を添えています。
キッチンからテラスおよびリビング方向を望みます。南側にあった玄関を減築しテラスとしたことで採光通風ともに確保できるようになり、より明るく快適な空間となりました。またリビングとの間の建具には欄間を設けることで閉め切っていても家族同士の気配を感じあえるよう配慮されています。
ダイニングから和室を望みます。シンプルでモダンにまとめられた和室なので他の空間との相性も良く、ダイニングと一体的に使用することも可能です。また既存の柱は埋木処理され元の和室の繊細な雰囲気と思い出を伝えています。
リビングの開口には木製サッシのFIXとドレ―キップ窓が採用され、内装やこだわりの家具との相性も抜群です。
こちらは離れの様子です。離れの改修に際しては、もともと庫裡の続き間にあった欄間、照明器具、幕板などが移設され、この家の記憶と歴史が受け継がれています。その他内装に関しては、壁、天井に揉紙風クロス、床板にメラミン化粧板を使用するなど安価な仕上材による和室作りが試みられました。